先日、「令和5年4月改訂 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 国税庁」として、令和5年度税制改正に対応したQ&Aについて、ご案内しました。
そこでは、14問追加された件をお伝えしましたが、そのうち、インボイス制度開始日である10月1日前後の取引についてもう少し詳細にご案内します。
(令和5年 10 月1日前後の取引に係る適用関係)
問38 適格請求書等保存方式の下では、仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等に係る帳簿及び適格請求書等の保存が原則として必要になるとのことですが、令和5年 10 月1日前後の取引において、売手における売上げの計上時期と買手における仕入れの計上時期が異なる場合、適格請求書等の保存の要否についてどのように考えればよいでしょうか。【令和5年4月追加】
【答】
適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者である売手は、国内において課税資産の譲渡等を行った場合、取引の相手方(課税事業者に限ります。)の求めに応じ、適格請求書を交付する義務が課されています(新消法57の4@)。
また、課税事業者である買手は、仕入税額控除の要件として、原則として、課税仕入れ等に係る帳簿及び適格請求書等の保存を要することとなります(新消法30FGH)。
これらについては、令和5年10月1日以後に売手が行う課税資産の譲渡等及び買手が行う課税仕入れについて適用されることとなります(28年改正法附則46@)。
この点、同じ取引であっても、売手における売上げの計上時期と買手における仕入れの計上時期が必ずしも一致しない場合があります。
例えば、機械装置の販売において、売手が出荷基準により令和5年9月に課税売上げを計上し、買手が検収基準により令和5年10月に課税仕入れを計上するといったことも生じます。この場合、売手においては、適格請求書等保存方式の開始前に行った取引(課税資産の譲渡等)であることから、買手から当該取引について適格請求書の交付を求められたとしても、当該取引に係る適格請求書の交付義務はありません。
このため、買手においては、原則として、売手における課税売上げの計上時期(課税資産の譲渡等の時期)が令和5年10月1日以後のものとなる取引から、仕入税額控除の適用を受けるために適格請求書等を保存する必要があります。
なお、上記の例のように、売手における課税売上げの計上時期(課税資産の譲渡等の時期)が令和5年9月となる取引については、買手は区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができます。
(注)1 令和5年10月1日前であっても、適格請求書の記載事項を満たした請求書等を交付することとしても問題ありません。詳細は、問74《令和5年9月30日以前の請求書への登録番号の記載》をご参照ください。
2 電気料金等のように検針日基準で売上げ及び仕入れを計上している場合であって、当該検針した期間に令和5年10月1日を含んでいたとしても、検針日により売上げ及び仕入れを計上している限り、令和5年10月1日前後の取引を厳密に区分する必要はありません。
3 未成工事支出金及び建設仮勘定に係る課税仕入れの計上時期について、建設工事等の目的物の引渡し又は完成の日の属する課税期間の課税仕入れとすることができます(基通11−3−5、11−3−6)。この場合、当該引渡し等の日(課税仕入れを計上する日)が令和5年10月1日以後であったとしても、当該未成工事支出金等の基礎となる課税仕入れに含まれる令和5年10月1日前の取引については、区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができます。
4 短期前払費用に係る課税仕入れの計上時期について、その支出した日の属する課税期間の課税仕入れとすることができます(基通11−3−8)。この場合、当該短期前払費用に係る取引に係る売手における課税売上げの計上時期(課税資産の譲渡等の時期)が令和5年10月1日以後になるものであっても、買手において同日前までに課税仕入れを計上しているものについては、区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができます(短期前払費用について、買手における課税仕入れの計上時期が令和5年10月1日以後になる場合の取扱いに関しては、問96《短期前払費用》をご参照ください。)。
上記のとおり、たとえ買手側の計上時期がインボイス制度開始後であっても、売手側の計上時期がインボイス制度開始前であれば、インボイスではなく区分記載請求書等により仕入税額控除の適用を受けることができます。そのため、インボイスの交付を求める必要はなく、逆に、求められたとしても売手側はインボイスの交付義務はありません。
なお、(注)1にあるとおり、インボイスと相違ない区分記載請求書等をインボイス制度開始前に交付しても問題ないことも記載されています。つまり交付する義務はない(強制はされない)けれど、実質的なインボイスをインボイス制度開始前から交付していても問題ないですよ、ということになります。