2023/12/06 コロナ前後の税務調査がどのように変わったか?
2023/11/29 今日支払う資金がない時に活用できるかも……
2023/11/22 銀行のBS及びPLでは分からない現実を見ておこう
2023/11/15 飲食店のFLコスト上昇と返済能力の説明資料
2023/11/08 金利上昇に耐えられるか
2023/11/01 ゼロゼロ融資の「借換」状況の実態
2023/10/18 粉飾決算で逮捕者が出た

コロナ前後の税務調査がどのように変わったか?(2023/12/06)

 国税庁より、令和4事務年度の「所得税及び消費税調査等の状況」が公表された。

 過去5年度分の所得税の調査件数の推移を調べると

事務年度 R4 R3 R2 R1 H30
実地調査件数(千件) 46 31 24 60 74
申告漏れ所得(億円) 5,594 4,198 2,992 5,640 6,024

 コロナ禍で調査件数が急減し、申告漏れ所得も下降の一途だったが、R4事務年度の実地件数はH30事務年度の実地件数比で▲38%に対し、申告漏れ所得金額は▲7%に留まっている。

 法人税の調査事績を見ても、令和4事務年度の実地調査件数62千件で申告漏れ所得が7,801億円だったのが、令和元事務年度の実地調査件数76千件で申告漏れ所得は7,802億円で、4年前と比して申告漏れ所得はほぼ同額に対し、実地調査件数は1.4万件の減少だった。

 所得税も法人税も、コロナ前後で見ると、実地調査件数が減少しても、調査の果実である申告漏れ所得の把握はほぼ同額まで回復している。要は1件あたりの申告漏れ所得の平均値が3〜4割上がっていることに他ならない。

 要調査先をどこにするかは従来は国税庁のKSKシステムを使って

  1. 数字(売上、粗利、外注費・・)の大きな変動のある決算書
  2. 役員退職金、貸倒損失など金額の大きな損失のある決算書

 調査官が決算書を見て「腑に落ちない」先をリストアップし、実地調査候補として抽出していたのが、2021年に全国導入された国税が独自開発したAIを使った「申告漏れの可能性の高い納税者」を抽出する運用に変わっている。その効果が上述の所得税・法人税の調査事績に表れているようだ。

 「数値の変化への説明」が常に出来るように納税者側は対応しておく必要がある。

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今日支払う資金がない時に活用できるかも……(2023/11/29)

 「仕入れ先や他の請求書払いの期日が、今日の預金口座残高では振り込めない。過去にも支払期日を伸ばしてもらったりした先には、再度の期日遅延を申し込むと信用問題に発展する……。銀行に掛け合っても即日融資は無理、ファクタリングも多少の時間は必要、場合によっては審査もあるし……」

 手持ちのクレジットカードで支払うことができれば、最大60日間は支払い期日を遅らせることができる。しかし、その前提条件は、仕入れ先やその他の取引先が「カード加盟店」になっていることである。通常はあり得ないことであろう。

 近年、「疑似加盟店(BPSP)」を介在させて、請求書払いをカード払いで決済できる仕組みを構築した会社が急速に利用者を増やしている。

 (株)クレディセゾンと(株)UPSIDERが提携し、「支払いドットコム」なる疑似加盟店を介在したサービスを、2022年4月から開始している。僅か1年で15,000社の利用者を獲得しているようだ。

 仕組みは

  1. 請求書払いの金額を自身の保有するクレジットカードの利用残高の範囲内で
  2. 「支払いドットコム」から請求先口座に振り込んでもらい
  3. 「支払いドットコム」がクレジット会社に当該残高+手数料を請求・回収し
  4. 利用者はクレジットカードの引き落とし日に3.の金額を支払う
  5. 10日締めの翌15日払い決済のカードで、締め日の翌日に「支払いドットコム」を利用すると
  6. 事実上の55日間の支払い延期を達成できる
  7. 手数料は一律4%必要

 利用するには、支払いドットコムのサイトに登録することになるが

  1. 必要書類・審査・担保は必要なし
  2. 取引先に「支払いドットコム」が銀行振込するが、振込人名義は「利用者本人」なので取引先にはバレない
  3. 登録したその日から利用可能
  4. 個人事業主も利用可能
  5. 税金や家賃や従業員給与等にも利用できる
  6. 自身の保有するカードの利用残高を把握しておくこと、複数のカードの利用残高を使うことも可能

 仮に法人カードで利用残高が1,000万円のカードを持っていれば、請求書払いや給与支払いなどの緊急時の資金不足時に、「支払いドットコム」を利用して1,000万円まで対応できる。事実上の4%金利のローンと同様の効果を持つことにも繋がってくる。

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銀行のBS及びPLでは分からない現実を見ておこう(2023/11/22)

 全国地銀97行の中間決算が出揃った。ポイントは、金利上昇に伴い、各地銀保有の有価証券の含み損の拡大が続いていることだ。地銀97行の含み損は、2023年9月末時点で2.8兆円で6月末から7割がた増加した(日経新聞)。

 特に「その他有価証券」の含み損の対処について

  1. 株式の売却益で日本国債の含み損を売却し相殺する地銀(株式含み益が多額でないと困難)
  2. 外国国債の含み損を売却損に変え自己資本を減じる地銀(自己資本及び本業利益が好調でないと無理)
  3. 日本国債償還までの平均期間を短くし、債券価格の変動の影響を受けにくくする
  4. 期間の長い日本国債を「満期保有」に変更し含み損を除外する(超低金利運用で続けることになる)

 各地銀が自行の体力に合わせて知恵を絞っている。

 じもとホールディングス(以下、じもとHD)傘下のきらやか銀行と仙台銀行の2021年〜2023年度中間決算概況を見ると

年月 2020/9 2021/9 2022/9 2023/9
有価証券残高(億円) 4,673 5,556 5,081 4,938
うち日本国債残高(億円) 195 118 47 51
海外債券残高(億円) 3,118 4,103 3,795 3,612
国内債券含み損(百万円) +104 ▲1 ▲1,027 ▲2,105
海外債券含み損(百万円) ▲1,438 ▲1,234 ▲30,097 ▲30,998

 米国国債の利回りを見ると、2021年3月頃には1.8%前後だったが、2023年10月には一時4.9%までになった。債券利回りの急上昇は債券価格の急落を意味する

 じもとHDの有価証券の運用を見ると、2020年度中間期から翌年度の1年間で、海外債券残高が約1,000億円増加している。米国金利が上昇するにつれて海外債券の含み損が一挙に25倍程度まで拡大し、その影響が2023年中間期にも及んでいる。じもとHDは公的資金180億円を導入することになった。

 含み損が直接銀行の自己資本を減じることはないが、自己資本/貸出金の一定の比率を守るため、分母である貸出金抑制の動きにも、借り手である中小企業は気を配っておかねばならい。

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飲食店のFLコスト上昇と返済能力の説明資料(2023/11/15)

 東京商工リサーチの「飲食業の倒産動向」(2023/1月〜10月)の調査によると

  • 負債額1000万円以上の倒産件数は727件(前年同期比76%増)
  • コロナ禍で新規参入した「持ち帰り飲食サービス」は前年1年間の2.3倍の倒産件数
  • 同様に「宅配飲食サービス」も前年1年間の1.7倍の倒産件数

 非常に厳しい状況で、2023年年間の飲食業倒産は過去最多を更新する可能性を示唆している。

 飲食業の経営分析で最も重要視される指標は、food cost(食材原価)とlabor cost(人件費)でFLコストとも呼ばれ、FL比率(=FLコスト/売上高)が65%を超えると赤字店舗で危険水域に入ったと見なされる傾向がある。55%程度なら優良店と金融機関も評価する。

 一般的に飲食店経営者は食材原価目標を30%前後に置き、メニュー内容やドリンク比率を加味して経営にあたるが、ChatBoxでFLコストを下げる具体策をきいてみると、下記の答えが出た。

  1. 仕入れ先の見直し:現在の仕入れ先と比較して、より安価な供給業者を探しましょう。複数の業者と価格交渉を行い、競争力のある価格を引き出すことが重要です。
  2. メニューの見直し:高コストの食材や原材料を使用しているメニューを見直しましょう。代替の安価な食材や原材料を使用することで、コストを下げることができます。
  3. 在庫管理の改善:適切な在庫管理を行うことで、食材や原材料のロスを減らすことができます。過剰な在庫を抱えることなく、必要な分だけを適切なタイミングで仕入れるようにしましょう。
  4. レシピの最適化:メニューのレシピを見直し、食材や原材料の使用量を最適化しましょう。無駄な使用量を減らすことで、コストを下げることができます。
  5. プロセスの改善:調理や仕込みのプロセスを見直し、効率化を図りましょう。効率的な作業手順や調理方法を導入することで、時間や労力を節約し、コストを下げることができます。
  6. メニュー価格の見直し:メニューの価格設定を見直し、適切な利益率を確保しましょう。ただし、価格を下る場合は、需要や競合状況を考慮し、売上げの減少を防ぐようにしましょう。

 東証上場の(株)シンクロ・フードが運営する「飲食店ドットコム」に掲載された飲食店の求人情報募集時の給与下限額のデータの分析によると、地域別の平均時給(2023/4〜10月)を公表している。

  東京都 大阪府 愛知県 福岡県
平均時給 1,234円 1,131円 1,055円 1,026円
10月改定後最低賃金 1,113円 1,064円 1,027円 941円

 深刻な人手不足で人件費上昇も今後更に続くと思われる。 

 東京商工リサーチが実施したアンケート調査によれば、年末年始の忘年会・新年会の実施予定は54.4%という結果が出て、飲食店経営の改善の方向性は見えにくい。

 ゼロゼロ融資の返済が続く飲食店は、金融機関に対して、コロナ前3年のFLコストの推移及び現状のFLコストを説明し上記対策案も加味した資料の作成とともに、厳しめに見た月別資金繰り表を用意して対応できるようにしておく必要があるだろう。

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金利上昇に耐えられるか(2023/11/08)

 日銀が10月31日の金融政策決定会合で、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を再修正した。長期金利の上限について1%をめどとし、一定程度を超えることを許容すると発表した。

 一方、米国のFRBも政策会合で金利の据置を前回に続き決定した。いよいよ、日本の金利上昇の始まりと米国金利高の一服感が同時期に表面化することになった。これでドル円相場も天井を打つ可能性が高くなった。

 次は、日銀のマイナス金利がいつ解除されるかに注目が集まる。巷では来年の4月頃ではないかと囁かれる。
 マイナス金利の解除は2006年から続いた金融緩和政策との絶縁を意味し、本格的な金利上昇時代に突入していくだろう。

 三菱UFJの株価は2年前の2倍、今年の始値の1.5倍になっている。三井住友もほぼ同様の動きだ。
 金利上昇により貸出金利収入が増え、本業利益が大幅に回復する期待感が株価に表れている。

 金利0の異常な融資も終わり、長年の低金利の借入に慣れきっている事業主は、真剣に今後増加するであろう支払利息も考慮した資金繰りを考えねばならない。同時に運転資金を長期借入で補っていないか等、資金使途と長短借入のバランスが整合しているかチェックも必要だ。

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ゼロゼロ融資の「借換」状況の実態(2023/11/01)

 今年の1月に「伴走支援型保証」の制度改正があり、その利用状況が各地の信用保証協会の「令和5年度上期の信用保証実績」で垣間見ることができる。この制度は主にゼロゼロ融資の返済開始を迎える事業者の「借換」による資金繰りを援助するものである。要件は

  1. 売上高、売上高総利益率、売上高営業利益率のいずれか一つの項目が
  2. 前年同月、直近決算、直近決算前期との比較において
  3. 5%以上減少している

 上記3項目の組み合わせで、どれか一つでも該当する指標が出れば

  1. 保証限度額1億円
  2. 保証期間が10年で据置期間5年以内

で事実上の借換で従来の返済額を減少させたり、元本の一部の再度の据置が可能となる。

 石川県信用保証協会の上期実績を見ると

  1. 保証した事業者件数は前年同期比で1.9倍
  2. 保証した融資の額は前年同期で3.4倍の522億円
  3. ほとんどがゼロゼロ融資の返済猶予を目的とした借換であった

他の保証協会を見ても

(単位:億円)
保証協会 上期保証承諾金額 上期保証債務残高償還額
東京 6,118 6,009
大阪 5,537 1,270
愛知 3,300 1,455
北海道 1,705 1,867
千葉 2,176 1,029
埼玉 1,824 1,546

 仮に保証承諾金額の半分が借換によるものとすると、例えば東京信用保証協会の上期の実質的な償還額は3,000億円程度となり、「返済のための融資」の状態が続くことになる。
 この「伴走型支援保証」は来年3月で終了となるので、その後は更に「代位弁済」が急増するのではないか危惧する。

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粉飾決算で逮捕者が出た(2023/10/18)

 ゼロゼロ融資の返済本格化に伴い、「粉飾決算」が発覚→倒産に至る中小企業が続出している。

 先日も東証スタンダードに上場する(株)プロルート丸光の前社長及び大株主で経営コンサル会社の社長が逮捕された。容疑は2021年3月期決算を粉飾し、株式の売り抜けと銀行融資を受けたことにある。

 同社は上場企業であるが売上規模は数十億円程度のアパレル関連の卸会社である。

 過去の決算短信で主要な損益勘定の推移を見ると

  2020/3月期 2021/3月期 2022/3月期
売上高(百万円) 5,570 5,810 4,289
粗利益率(%) 21.9 23.8 21.5
販管比率(%) 28.9 22.7 33.6
営業利益(百万円) ▲405 63 ▲518
  1. 卸会社の粗利率が2021年3月期で前年比2%改善している
  2. 同様に販管比率も前年比で6%の改善が見られる
  3. 結果、売上高に対して約8%の利益改善効果が見て取れ、50億円の売上なら4億円の営業利益増になる

 2021年3月期の決算短信は同年の5月6日に公表され、その日の株価は高値で213円(出来高1,450万株)だったのが、8月には高値730円まであり、出来高も29,400万株と3ヶ月連続して1億株を超えた。

 本日現在の株価は18円である。5月に粉飾決算を公表し黒字転換で市場に騒がれ、株価が急騰し8月までにコンサル会社の社長が売り抜けたという構図がはっきりと見える。

 また同社は、2021年12月に過去取引のなかった金融機関から約20億円の融資を受け、既存の金融機関の融資残高13億円の返済を行っている。

 これもゼロゼロ融資の緩い審査体制の中で、コロナ架で黒字転換を果たしたアパレル卸会社という評価がなされたからであろう。当然、金融機関に対する詐欺罪が成立する。

 顧問先で粉飾決算の疑いがあれば、直ちに当該金融機関向けに「いつ、どの勘定で、どのように粉飾したか」を十分説明できる資料・文書を早急に作成し、その後の経営努力による改善効果をアピールできるように準備しておかねばならない。

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