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- 2024/04/17 税理士事務所が作成する決算書の「姿勢」を見ている
- 2024/04/10 総合商社が狙う税理士業界の顧問先
- 2024/04/03 ITスキルを持った士業資格者が事務所内には不可欠の事例
- 2024/03/27 船井総研を解剖してみる
- 2024/03/20 今後の専門家の価値
- 2024/03/13 個人歯科医院のM&A専門家が望まれる訳
2021年11月に三菱UFJ銀行が
- 経営支援システムを運営する株式会社BusinessTechというスタートアップ企業の株式の過半を取得
- 連結子会社にして、自行全店でのBusinessTechの開発したビジクルを運営開始
- 常陽銀行、京都中央信金、道銀、静岡銀、大垣共立、ふくおかFG等々もビジクルに参加
- 東京海上日動もビジクルを採用し、保険代理店を通じて顧客のスモールビジネスの支援に乗り出す
ビジクルの基本軸はスモールビジネスのDX推進で、財務・労務・電子契約・事業承継・組織力向上・補助金・助成金・ESG等、さまざまなジャンルのスモールビジネスが持つ経営課題と、課題解決能力のあるDX商材をマッチングさせるプラットフォームで
- 金融機関の支店担当者や保険代理店の営業担当が、ビジクルを用いて
- 顧客の経営課題を解決するDX商材を検索し顧客の同意を得て当該企業に紹介する
- 紹介後の商談状況の進捗はビジクルサイト内で金融機関等が把握できる
- 顧客もサイト内で自社に適合した「問題解決事例」を検索・閲覧できる
茨城県の常陽銀行は
- 2年前にビジクルを導入
- 2023年4〜7月の4ヶ月で460件のDX案件の取次の実績(同期間の前年比で4.6倍)
- 同社はDXアドバイザーなる資格制度を行内に設けたり
- DX通信を発行したりでDX商材の取次をしていた実績が、過去からあった
- 取次案件で多いのは、会計システムや勤怠管理システムで
- 今後は電子帳簿保存やインボイス対応のための請求管理システム等の取次が増加
ソリューション提供企業の一覧は公開されていないが、弥生会計やfreee等の会計システムはもちろんのこととして、最近ではクラウド勤怠管理のジンジャーもソリューション企業メンバーに入ってきている。少なくとも200社近いソリューション企業が、スモールビジネスの、特にDX対応にビジクルを通じて接触しているのだろう。
スモールビジネスに安価なDX商材が入り込んでくると、税理士や社労士の業務負荷が下がる。と同時に、それ以上の「士業の使い勝手感」を企業経営者に実感させないと、顧問契約の維持は危なくなるだろう。
四国銀行の尼崎支店が、取引先から4,000万円の銀行融資の依頼を受けたが、提出された決算書が粉飾によるものと判り、当該会社の社長、総務部長、決算書作成を行った税理士事務所の職員が逮捕される事件があった。
その後、警察事案としては初めて、逮捕された税理士事務所職員との間で司法取引がなされ、税理士事務所の所長と関係したコンサル会社の役員が逮捕され、税理士事務所の職員は起訴猶予となった。ごく最近の報道である。
想像ではあるが、職員は雇用主である税理士の指示で粉飾決算に加担したと供述し起訴猶予となり、代わりに監督者である税理士が逮捕されたと見るのが普通であろう。要は社員が社長を売ったことになった。
これから本格的な3月決算作業が税理士事務所で始まる。銀行からすれば「どんな決算書が提出されるか」、特に過剰債務やリスケ等で資金的に苦しんでいる取引先企業に至っては、今期の決算書に相当の注意を払うはずである。同時に、決算書作成を担当している税理士事務所の「姿勢」「行内での評価」等にも関心を寄せるだろう。
減価償却費の計上が任意だからといって、計上する決算期があったりなかったりと、ちぐはぐな対応をしていれば、その税理士事務所の「姿勢」そのものを疑う銀行があっても不思議ではない。「減価償却で利益操作」などという手口は、銀行員なら誰でも知っている。
コロナ禍も含め、資金的にダメージを受けた中小零細企業では、BSに「役員借入金」勘定の残高が大きいところもあるだろう。
今期決算で「どうしても見かけ上の黒字決算が必要だ」と経営者から懇願され、仮に「役員借入金/売上高 ×××」と一つの仕訳を起こしたとする。これだけで、銀行には「黒字が出たので役員借入金の一部返済を実行した」と説明できるし、役員借入金の残高証明などないので、1,000万円未満程度の粉飾決算はできるのかもしれない。役員借入金⇒売掛金にすれば、回転期間や粉飾した債券の消込等で更に別の粉飾の誘惑を抱えることになり、泥沼にはまることになる。
昨今は粉飾倒産が急増していることもあり、銀行の決算書を見る姿勢は厳しくなっている。このことを、税理士事務所も経営者も肝に銘じておく必要がある。
中小機構による「中小企業のDX推進に関する調査」の結果から、中小企業の課題(前年調査との比較において)として挙がってきたのが、従業員20人以下の企業では
- DXの経営者の意識・理解は進んできたが、さて「何から始めてよいのかわからない」との回答が一番多く
- 始めても「具体的な効果や成果が見えない」の回答が続き
従業員21人以上の企業では
- DXの必要性は大いに感じるが
- 「ITに関わる人材が足りない」の回答が41.7%に達している
DXの推進に向けて期待する支援策についての回答では、第1位に「補助金・助成金」、第2位に「中小企業のためのDX推進指針の策定・公表」と続き、それ以下で10%〜15%の回答がいくつか続くが、中でも
- 「公的支援機関や専門家による経営相談」が14.3%
- 「専門家の派遣」が13.0%
と、合わせて約27%の回答が、専門家による支援となった。
辻・本郷税理士法人グループの中核を成す辻・本郷ITコンサルティング(以下 ITC)が総合商社の伊藤忠商事との資本業務提携を公表し、両社及び伊藤忠が業務提携しているPRONIアイミツを運営するPRONI(株)も加わって、DX支援マッチングプラットフォームを立ち上げるようだ。
「PRONIアイミツ」は国内最大級の受発注サイトで、すでに30万件以上の成約実績がある。受注側の専門家カテゴリには税理士が4,000人以上登録されており、うち、相続申告請負では2,800人ほどの税理士が含まれる。
ITCは「better」相続を運営しており、辻・本郷税理士法人は年間4,800件以上の相続申告数を誇っている。DX支援マッチングプラットフォームの運営にITCが関わり、PRONIアイミツで相続税申告の相談・受発注サービスと競合することにもなり得る。
ITCは2025年度に上場を予定していると言われており、その意味で伊藤忠商事との資本業務提携は大きなニュースにはなる。伊藤忠商事の情報通信部門では、辻・本郷税理士法人の約17,000社の顧問先をDX支援マッチングプラットフォームの発注者として想定しているのだろうが、実際の発注者がどれだけいるのか関心を持って見守る必要はありそうだ。
昔からBtoBでの「売ります」「買います」のマッチングサイトは、圧倒的に「売ります」層が多く、「買います」層をいかに増やすかが運営の肝である。その意味で今回のITCの試みは、スモールビジネスを顧客層に持つ「税理士事務所」のイメージをアピールする機会になるのかもしれない。
今月から相続登記義務化がスタートした。相続の開始及び相続により不動産の所有権を取得することを知った日から3年以内に手続きを行わないと、10万円以下の過料を科せられることになった。
司法書士業界には直接のビジネスチャンスが到来する一方、相続登記で相談を受ける会計事務所業界は、顧客に対して何らかの対応を迫られる。
2021年4月にリリースされたbetter相続登記は、「自分でできる! 相続登記」と銘打ち、webやスマホで登記申請ができるシステムを提供している。不動産登記申請ベースで5,400人超が使用するサービスに成長している。
better相続登記の開発者は、ソフトウェア開発の仕事に10年従事し、その後司法書士に転向した経歴を持っている。2022年に司法書士法人betterを開設し、その後、辻・本郷グループ入りして、辻・本郷司法書士法人に名称変更を行っている。
自分でできる「better相続申告」も、現在の運営者は辻・本郷ITコンサルティングで、監修は辻・本郷税理士法人が行っている。定額の55,000円で自宅で完結するwebサービスも提供し、利用数は被相続人ベースで2,100人超(同社HP)となった。
辻・本郷税理士法人は現在国内で89拠点の支部展開をし、社員数2,000名を超える国内最大手の税理士法人となっている。社外理事には元財務事務次官や元外務事務次官等を擁し、顧問には複数の各地域の国税局長経験者の名前を連ねている。顧問先数は17,000社超で、相続申告件数は年間4,800件を超える。まさに巨大な士業法人となった。
辻・本郷グループの戦略は、「会計事務所M&A」のノウハウを持った税理士やITの経験者で士業資格を取得した人物等の買収・吸収合併で、これらを繰り返して今日の姿に導いてきているようだ。ITスキルを保有した各士業の資格取得者及び経験者を自社の組織内に抱えておくことで、better相続のようなコンテンツを評価したり、取得に向けた提案を行うことができるのだろう。
中小企業向け経営コンサルの第一人者である船井総研の2023年12月期決算報告から、同社の営業概要を読み取る。
- 売上高は282.38億円、営業利益は72.47億円、営業利益率が25.7%
(参考)タナベコンサルティングの2023年3月期売上高は約117億円、営業利益11.5億円 - セグメント別売上高は
- 経営コンサルティング事業 202.84億円(構成比71.8%)
- ロジスティクス事業(物流)38.86億円
- 経営研究会会費 22.28億円
- デジタルソリューション事業 40.51億円
- 経営コンサルティング事業の営業利益は67.57億円(構成比95.4%)
- 経営コンサルティング事業の業務区分別売上高
- 月次支援 141.04億円(構成比69.5%)
- プロジェクト 27.25億円
- 経営研究会会費 22.28億円
- 経営セミナー収入 5.5億円
- その他 6.75億円
- 月次支援売上を分解すると、平均社数3,766社×平均年間報酬374万円
平均月額顧問料が約30万円 - 業種別の経営研究会会費収入を分解すると、会員数7,300人×会費約305,000円
- 経営セミナー収入は、セミナー開催数1,423回、セミナー参加者数24,460人、平均単価22,485円
- 業種区分別コンサル売上高の上位5業種
住宅不動産、医療介護福祉、士業、ライフイベント/ビューティー、製造業(いずれも10億円以上) - 業種区分別コンサル売上高の対前年伸び率の上位5業種
製造業、金融機関、外食、教育保育スクール、ライフイベント/ビューティー
最後に職種別人員の推移を見ると
- 全従業員数1,535名(対前年153人増)
- 内、コンサルタントは982名(対前年120名増)
生産性は
- 総売上高/総人員=1,840万円
- 総売上高/コンサルタント人員=2,876万円
船井総研はセミナー開催で経営研究会の会員を募り、年間30万円程度の会費で集合指導を行い、その会員から個別営業でコンサルの月額顧問、プロジェクト案件を獲得するというビジネスモデルを構築している。基本はセミナー開催数と集客能力である。
今月12日に日銀総裁より、「今週の追加的情報」で金融政策の見直しが決まるだろうとの記者会見があった。
3日後の15日に、2024年春闘の賃上げ率(連合による第一次集計)が平均で5.28%になるとの報道があった。物価目標2%維持に自信を示した後の賃上げの情報に後押しされ、3月18、19日に開かれた金融政策決定会合で、「マイナス金利の解除」が決定された。金利は物価と賃金水準で決まるからだ。
米国の政策金利の推移を見ると
2020年2月 | 1.75% | |
2020年3月 | 0.25% | コロナ禍で1.5%の利下げ |
2022年2月 | 0.25% | 2年間変更なし |
2022年3月 | 0.5% | 0.25%利上げ |
2024年2月 | 5.5% | 2022年中に5回利上げ、2023年中に4回の利上げ |
マイナス金利解除とは現行のマイナス0.1%金利が0%になることであり、実質的な利上げである。今回は0〜0.1%程度まで引き上げられ、30数年続いた金融緩和の大転換を迎えることになる。日本が米国のような「利上げ」を追従することは全く考えられないが、少なくとも0.25%程度の政策金利の利上げが年内に1〜3回程度はあるかもしれないとの前提で、中小企業経営者、特に過剰債務企業と自身で認識している経営者は、今後の対策を検討しておかねばならない。
確実に
- 安易な追加借入の打診
- 借換(今よりも高い金利水準になる)
- 他行への乗り換え(下手を打つとメインから切り離し)
等は厳に慎むべきである。
東京商工リサーチが2024年2月に実施したインターネットによる「金融政策に関するアンケート調査(有効回答4,499社)」によると
- 前年に比べて借入金利が上昇したと回答した企業が16.1%に達した
- 2024年7〜12月のあいだに金利の上昇があると回答した企業が32.2%
- 2024年6月までに金利の上昇があると回答した企業が21.1%
金利の上昇を経験した企業、今年中の金利上昇を予測している企業合わせて69.4%の企業が金利上昇を言及し、敏感な反応をしている。
この大きな転換点の中で、個別クライアントの「資金管理」をうまくプレゼンできるかどうかで、今後の専門家の価値が決まるかもしれない。
「2023年の医療機関の倒産は41件」と帝国データバンクの調査報道があった。
内訳は病院が3件、診療所が23件、歯科医院が15件で、負債総額は253億7,200万円と過去10年で最大となった。倒産の態様では民事再生が2件、残りの39件は破産であった。
昨年の9月に公開された厚労省の「医療施設調査」を見ると、「施設の種類別にみた施設数の動態状況」に「増減分析」が記載されている。直近の統計で2021年10月〜2022年9月の1年間の要因ごとの増減件数を見ると、以下のとおり。
一般診療所(無床) | 歯科診療所(無床) | |
---|---|---|
開設 | 7,803 | 1,332 |
再開 | 311 | 107 |
廃止 | 6,618 | 1,409 |
休止 | 550 | 174 |
増減数 | 1,101 | ▲144 |
2021年10月 | 98,123 | 67,878 |
2022年10月 | 99,224 | 67,734 |
管轄する保健所への「開設届」や「廃止届」の件数から作成されており、施設の場所は変更なく、開設管理者の交代の場合も含まれるため、「廃止=廃業」とは異なるという点には気を付ける必要があるが、歯科医院は実質的に施設数そのものが減少している。
歯科医院は年間に1,000件以上の新規開設がある反面、それ以上の廃止・休止により、歯科医院数が減少している。今後も歯科医院の院長の高齢化や後継者難で施設の廃止傾向は続くであろう。
歯科医院の約8割は個人事業である。医療法人の歯科医院の事業承継なら出資金の譲受と経営者交代で済むが、個人事業の場合は
- 土地建物・歯科設備一式の譲渡
- テナントの居ぬき物件の譲渡
のいずれかのパターンが多い。居ぬき物件の譲受の方が、新規開業者にとって当初の投資額が少なく済み、同時に一定の患者数を抱えている歯科医院なら、開業当初から一定の患者数を見込んでスタートできるというメリットもある。
M&Aを活用した個人歯科医院の「承継」を指導する専門家が多く求められるだろう。