2024/10/23 2020年代で最低賃金1,500円の意味
2024/10/09 金融機関広域連携プラットフォーム
2024/10/02 税理士がM&A登録支援機関として果たす重要な役割
2024/09/25 税理士会が求める「継業」者の発掘
2024/09/18 出張整備が与える教訓
2024/09/11 被相続人の預金口座をマイナンバーに紐づけよう
2024/09/04 業界にとって脅威となる会計事務所か?

2020年代で最低賃金1,500円の意味(2024/10/23)

 今年の最低賃金の全国平均は1,055円になり、前年より51円upとなった。最低賃金が最も高いのはの1,163円(東京都)で、最も低いのは951円(秋田県)となった。この結果をみると、最低賃金が低い地域で働くより高い地域で職を求めた方が良いと考える人がいても不思議ではなく、そうなれば人口流出が顕著になり、地方創生と逆行してしまう。

 岸田内閣の時に「2030年代半ばには最低賃金1,500円を実現する」との方針が出されたが、石破内閣になってすぐに「2020年代で最低賃金1,500円達成」との方針に転換された。現在の1,055円が10年後に1,500円になるには、年率で約3.6%の複利で賃上げすることが必要で、2020年代最終年度(6年後)に1,500円になるには、年率で約6.0%の複利で賃上げする必要がある。

 2024年2月14日に公表された日本商工会議所の「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」によると

  1. 賃上げ実施予定とする企業は61.3%
  2. 内、業績の改善が見られないが賃上げをする(防衛的賃上げ)は60.3%
  3. 従業員5人以下の企業の賃上げ実施予定は32.7%
  4. 最低賃金を下回ったため、賃金を引き上げた企業の割合は38.4%
  5. 最低賃金を上回っていたが、賃金を引き上げた企業の割合は29.8%

 今から10年前の2014年の最低賃金は780円で、今年の1,055円になるには年率で約3.1%の賃上げ率であった。石破内閣では、これを年率で6.0%の賃上げを、今後6年間継続しようとする政策をぶち上げている。年率6.0%の賃上げを2030年まで実施すると、最低賃金は東京都で1,650円、秋田県は1,349円となり、格差は更に広がる。

 一方で、防衛的賃上げを行わざるを得ない中小企業が6割という現実もある。その中で6.0%といった賃上げを行えというのは、賃上げ率以上の業績改善を目指さないと市場から退出命令が出ることを意味する。中小企業の約4割は、毎年上昇する最低賃金に耐えきれず、倒産する事態を引き起こすことになるであろう。

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税理士がM&A登録支援機関として果たす重要な役割(2024/10/02)

 中小M&Aにおける仲介会社の不正行為等の報道がなされるようになって、中小企業庁もM&A支援機関への規制の強化に乗り出した。2024年9月18日現在で、登録M&A支援機関数は2,809件に達している。登録支援機関の種類を見ると

  1. 法人の支援機関は2,118件
  2. 個人の支援機関は691件
  3. 税理士が支援機関となっている件数は469件
  4. 公認会計士が支援機関となっている件数は272件
  5. 中小企業診断士が支援機関となっている件数は236件
  6. 以下、行政書士75件・弁護士44件・司法書士9件・社労士8件
  7. 士業全体で登録支援機関数は1,113件で、構成比は39.6%
  8. M&A専門仲介会社やコンサルティング会社は1,448社で、構成比は51.5%

 旧来のM&A仲介会社と税理士・会計士中心の士業とで全体の9割以上を占めている。

 最近の不祥事を受けてか、登録支援機関にはM&Aの「最終契約の交渉・締結」の中で

  1. 買い手側が、金融機関から、「保証の解除・移行」の実行について組織的な意向表明を取得すること
  2. 買い手側は、クロージング前に、上記手続きに関する必要な書面を金融機関に提出すること
  3. 更に万全を期すためにはクロージング日に
  4. 代表者の変更登記の手続き、及び保証の解除・移行の手続きを同時に実施すること
  5. 場合によっては、買い手側が売り手側の債務の一括返済に応じ
  6. 買い手側が返済資金を当該金融機関から借入する方法等も検討

 業界の自主規制団体であるM&A仲介協会(会員数118社)も、保証解除を6ヶ月以上遅らせる等の悪質な業者をリスト化して会員間で共有し、リストに掲載された業者との取引を禁じるといった規制強化に乗り出した。

 中小企業の再生・後継者対策にM&Aが友好的との認識は深まってきてはいるが、中小企業の場合は既存融資には大半が経営者保証がついており、譲渡対価の算定以上に「経営者保証の解除」が最優先される。登録支援機関である税理士も十分に配慮してこの業務を行うべきである。

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税理士会が求める「継業」者の発掘(2024/09/25)

 北九州市が、「後世に残したい店」情報の募集という、自治体にしては変わった取り組みをし始めた。後世に残したい店情報には、地域で愛されてきたお店・味、地域で育まれてきたものづくり等が含まれている。後世に残してほしいが、後継者がいないので廃業しお店や工場がなくなっていくことに対し、「継業」者を募る方式のサイト運営を開始する取り組みである。

 群馬県は以前から「後継者バンク」の登録促進を行っているが、2024年7月時点で累計登録者数が166人に達している。後継者バンクでは、「起業」よりも「継業」を望む個人・法人が登録し、事業承継を求めている個人・法人との橋渡しが行われており、群馬県事業承継・引継ぎ支援センターが運営している。

 地域の小規模なビジネスの事業承継のマッチングサイトである「relay(リレイ)」は、上述の北九州市のような自治体の活動を支援している。relayの特徴は、

  1. 事業の引継ぎを求める事業主は、オープンネームでサイトに登録する
  2. 売主側のサイト画面の作成や取材費、マッチングした際の手数料も、すべて無料で行われる
  3. 自治体や商工団体で提携しているのは9月15日時点で44件
  4. 同様に、事業承継引継ぎ支援センターで提携しているのは7件
  5. 金融機関で提携しているのは、北洋・鹿児島・高知銀行等含め8行
  6. relayの運営会社は、宮崎県に本社を置く(株)ライトライトで、地方で起業した会社
  7. 後継者候補という形で求人を行い、一定のノウハウ等を引き継ぎ、バトンタッチする方式も採用
  8. relayに登録し、承継問題の相談役となっている士業は32人

 地方での小規模事業の後継者問題は、益々深刻化しつつある。黒字なのに引継者がいないために廃業する一方で、起業・継業で企業経営に意欲のある個人・法人が存在する。双方のマッチングを信頼性を持って委ねられるのは、やはり売り手側をオープンネームでウェブサイトに登場させているからであろう。

 税理士業界では、栃木県税理士協同組合がrelayと業務提携し、県内約740人の税理士に利用させている。廃業で顧問先を失う前に継業者を発掘することが、自身のメリットにもなると考えたようだ。
 この動きは、地域の小規模事業者を顧問先として抱えている税理士業界にインパクトを与えそうだ。

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出張整備が与える教訓(2024/09/18)

 車検・法定点検等の自動車整備とは、消費者がディーラーか修理工場に車を持参して点検・修理をしてもらうものと思い込んでいた。

 2019年に創業したセイビー(Seibii)は、出張整備というビジネスモデルを考案し、レッドオーシャンである自動車整備業界で急成長している。2022年から2023年で出張整備の依頼件数が3.4倍、2024年1月度の依頼件数は前年同月比で10倍以上の成長を遂げている

 日本自動車整備振興会連合会の「令和5年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」を見ると

  1. 総整備売上高は5兆9,072億円
  2. 対前年比2.9%増
  3. 事業所数は91,849事業場
  4. 整備士数は331,255人で前年より426人減少(前年は前々年より2,638人減少)
  5. 整備要員1人当たり年間整備売上高は14,857千円
  6. 整備要員平均年齢は47.2歳
  7. 整備要員平均年収は4,172.8千円

自動車整備業界の課題は、整備士の高齢化及び整備士志望者の減少である。加えてハイブリッド車や電動車の登場でスキャンツール等の新技術の会得が必然となり、今後は技術研修や若手整備士の採用力のある整備会社が優位に立ってくることが確実だ。

 セイビーはすでに全国47都道府県に展開している。整備士の採用も合格率20%という厳正な審査を通過したものに限られ、採用後も独自の通信教育や定期的なテストを受け、車種ごとの特徴や作業手順を習熟するための研修を受けている。1時間当たりの賃金も3,000円を超えるとも言われている。整備士資格を持ったものがセイビーに転職するか、副業として自身のスキマ時間で業務受託するかなど、従来にはない働き方に変わってきているようだ。

 ネットで整備・修理等の依頼を受け、自らが顧客の元に足を運び、自身の整備技術を提供するというサービス形態。顧客が工場まで自動車を運び、整備が終われば引き取りに行くという従来の慣行を終わりにする威力があるような気がする。

 レッドオーシャンに属する業界でも、「当たり前のこと」の視点を変えてみると、従来にはない新規ビジネスへ変貌する可能性がある。

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被相続人の預金口座をマイナンバーに紐づけよう(2024/09/11)

 総務省のホームページにマイナンバーカードの交付枚数が公表されている

 交付枚数は1億142万枚(2024年9月8日時点)で、交付枚数から死亡者・非更新数を除いた保有枚数は9,347万枚(2024年8月31日時点)となり、国民普及率は74.8%であった。

 今年の12月で旧保険証の新規発行が終わる。マイナンバーカードに保険証の機能を付けたマイナ保険証利用率は7月末で11.13%(厚生労働省)である。マイナンバーカードは普及したものの、生活上での利用頻度は低いままだ。

 次のマイナンバーの利用率の関心ごとは、個人の預貯金口座との紐づけがどの程度進むかであろう。デジタル庁は年内に「一度に複数の金融機関の預貯金口座への付番が行える仕組み」を提供し、同時にマイナポータルからも登録できる仕組みを創設しようとしている。

 相続手続に関していえば、マイナンバーを自身の保有する金融機関の各口座に紐づけすることで、相続時に被相続人の預金口座全部を把握することが可能になる。

 この仕組みは、

  1. 被相続人が口座に付番することに同意する
  2. 預金保険機構を通して全国の金融機関に被相続人名義の口座に個人番号を付番する
  3. 相続発生時には相続人が被相続人名義の口座確認の申請を行い
  4. 預金保険機構は被相続人の個人番号をすべての金融機関に通知し
  5. 相続人は預金保険機構から口座の通知を受ける

 現在のところ、マイナポータルで口座に付番を付ける申請が可能になるのが2024年末頃とされ、預貯金口座管理制度が2025年3月開始とされている。

 「マイナンバーを銀行口座に紐づけるのは国に財産の把握をされるのでは?」といった穿った意見もある。しかし、個人番号を預金口座や証券口座、生命保険証等に付して(付番)おけば、相続以外に災害時にもスマホさえあればマイナポータルを活用して財産管理ができると思えば、利用価値は高い。

 相続税の税務調査も、預貯金口座の紐づけをしていると現地調査の割合が少なくなる、といった事象が出てくる可能性も考えられる。逆にいえば、紐づけしていない案件に調査の重点が置かれることになるかもしれない。

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業界にとって脅威となる会計事務所か?(2024/09/04)
  1. 現在30歳の公認会計士が、
  2. 大学在学中に論文試験合格して、
  3. 2019年9月に株式会社SoVa設立。
  4. 会社目的は「会計事務所SoVa」の運営で、
  5. 2024年8月に2回目となるVC向け第三者割当増資で約2.8億円の資金調達を実施した。
  6. 引受先6社には元ヤフー社長運営のVCやジャフコ、中国銀行系VCがある。

 SoVaのサービスは、経理・給与・役所手続き等々の面倒な作業を月額29,800円〜から丸受けするサービス(ここまでは同業でもよく見受けらる表現)であるが、引き受けできない対象を細かく設定しているのが特徴的である。

 たとえば、現時点で契約できないものとして

  1. 個人事業主、NPO、一般社団、一般財団
  2. 業種として医院、薬局、介護・福祉、建設、製造、不動産
  3. 手形取引がある、外貨建て口座がある
  4. 月間仕訳数が501件以上
  5. 売上高5億円を超える
  6. 従業員数30人以上

 これだけの制約を設けていると、旧来型の会計事務所の顧問先層とは被らない。今後は地方も含め、起業して数年前後の新設法人を全国規模で集客していくのかもしれない。

 今回の資金調達の目的のひとつに「税務労務の専門知識を学習し、高品質な相談対応を実現するAI税理士に関する特許」の出願がある。この特許の狙いは

  1. 顧問先個々の背景情報を十分に把握した上で、専門的な質問に回答できる
  2. 補助金・助成金や都度変更される各種制度について、自社に有意義なものだけを選択して情報を取得する

 会計事務所を運営する株式会社を作って、「何をやるのか」「何に貢献できるのか」といった明確なvisionとtechnologyを提案できれば、自ずと必要な資金調達が可能になることを示した事例になるだろう。

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