2025/12/09 相続土地国庫帰属制度と、大分の大火災事故
2025/11/26 診療所は儲かっているので診療報酬の改定は必要ない?
2025/11/11 相談件数が過去最高、民業圧迫か?
2025/10/29 オルツの粉飾決算の構造を仕訳で推測すると……
2025/10/15 freeeが黒字転換した

相続土地国庫帰属制度と、大分の大火災事故(2025/12/09)
 法務省の統計によると、令和7年10月末時点の相続土地国庫帰属制度の申請件数は4,556件。そのうち帰属が認められたのは2,145件で、帰属の承認割合は約47%となる。

 同制度の概要をまとめると

  1. 令和5年4月開始。相続人にとって不要な土地、維持管理が困難な土地が対象
  2. 必要となる費用は、原則「1筆あたり14,000円の審査手数料」と「1筆あたり20万円の負担金
  3. 申請件数のうち、却下は74件、不承認は74件で、全体の数%に過ぎない
  4. 建物がある土地、担保権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、汚染土地、境界が明らかでない土地等は、却下の対象になる

 次に、帰属承認後の登記簿上の扱いについては

  1. 通常と同様の所有権移転登記が行われ
  2. 所有者欄には「国(財務大臣)」と記載される
  3. 地目・地積は従来の登記内容が引き継がれる
  4. 登記簿上に「国庫帰属土地」といった特別な符号や注記はない
  5. 将来的に処分(売却・貸付)が行われる場合には、国有財産の広告や入札情報として公開される

 宅地に注目すると、申請件数は1,588件、これに対し帰属が承認された件数は784件で、約半数に上る。

 先の大分県の火災事故では、焼損した約170棟のうち、空き家が約70棟と見られることが発覚した。空き家がすべて相続土地とは限らないが、建物を取り壊して(可能なら自治体の補助金等)で更地にし、国庫帰属制度を使っていれば、この大火災事故の影響は軽減できたかもしれない。自治体の復旧コストも、大幅に削減できたであろう。

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診療所は儲かっているので診療報酬の改定は必要ない?(2025/11/26)

 来年度の診療報酬改定の議論が「財政制度等審議会」で始まっている。

 11月11日に公開された財政制度分科会の配布資料で、医療法人の病院・無床診療所の収益・費用構造が詳細に述べられている。
 令和5年に定められた「全ての医療法人の経営情報を決算後3ヶ月以内に提出」義務化により、地域の大病院医療法人や一人医師医療法人の収益・費用構造が明らかになった。

 日経新聞の11月5日付の記事の見出しに、「経常利益率、診療所6.4%・病院0.1%」とあった。病院経営が明らかに苦しく、診療所の経営は儲かっている、との印象を与えるような書き出しで、今回の診療報酬の改定は「病院の増額改定を行うべき」との方向性を打ち出しているようだ。

 同審議会配布資料を詳細に見ると

  病院 診療所(医療法人)
平均の年間収益総額 約36億円 約1.9億円
平均の年間経費総額 約36億円 約1.7億円
給与費総額 約19億円(52.6%) 約9,400万円(48.3%)
内 院長給与費 約2,600万円 約2,700万円
給与費以外の経費 約17億円 約8,200万円

[出典]財務省HP「財政制度分科会(令和7年11月11日開催)資料」より作成

 特に診療所では平均収益の13.7%を院長報酬が占め、かつ利益が約2,000万円生じる実態となっている。そのため今回の改定に関しては、特に診療所への増額は期待できないことになるかもしれない。

 この配布資料には「医師給与の国際比較」のデータも添付されており、以下のように報告されている。

  1. 医師の給与水準は国内(全産業)平均の4.5倍、勤務医は2.5倍
  2. OECD諸国の医師給与は国内(全産業)平均の2.9倍、勤務医は2.1倍
  3. 日本の医師給与水準は国際的にみても高く、特に診療所の院長の給与水準については、OECDの開業医との比較においても大きく乖離している

 病院は現在の物価高や人件費高騰の影響を受けて経営にダメージを受けている。しかし診療所は院長の高い給与水準でも利益を獲得し、経営実態は良好。「診療報酬」の増額改定は必要なし。

 配布資料はそう訴えているようだ。

[参考]
財務省「財政制度分科会(令和7年11月11日開催)資料一覧

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相談件数が過去最高、民業圧迫か?(2025/11/11)

 中小機構が「令和6年度よろず支援拠点相談等実績」を公表した。

 全国での相談対応件数は717,618件で、過去最高件数になった。最も多かったのは福岡県の75,430件で、次が鹿児島県の41,440件。なお、東京都は10,934件と低調だった。

 よろず支援拠点の特徴は、

  1. 売上拡大、経営改善、新規創業等の相談および伴走支援
  2. 登録した専門士業等のアドバイスを受けることができる
  3. 相談は何度でも無料(中小企業庁が予算を持っている)
  4. 従業員5人以下の企業の相談が全体の57.9%を占め、創業前の相談が18.5%に達する
  5. 利用者の満足度は95.8%

 福岡県のよろず支援拠点では、今年の10月予約分から

  1. 月の予約は4件まで
  2. ネット集客を専門とするITコーディネーターの相談予約は12月末まで満席状態
  3. 相談の仕方は「対面相談」「オンライン相談」を原則とする
  4. コンサルタント業の事業者の相談の利用には一定の制限をかける(ノウハウの流出を避けるためか)
  5. マルチ商法等の事業者の利用は停止する

といった詳細なルールの変更を設けている。

 福岡県の拠点内の専門士業およびコンサルタントは56名ということだ。うち18名が女性の専門家で、税理士は3名登録されている。

 拠点で行われている相談業務の一例を挙げると、

  1. IT WEB SNSのカテゴリーでは
    1. グーグル等で検索上位に表示される対策
    2. スマホユーザーを取り込むLINEアカウントの活用
  2. 売上拡大のカテゴリーでは
    1. ふるさと納税返礼品採用のアドバイス
    2. クラウドファンディングの相談
  3. 飲食のカテゴリーでは
    1. フードコーディネーターによるメニュー作り相談
    2. 居抜き物件の相談、店舗契約の相談
  4. 総務経理のカテゴリーでは
    1. 社労士による就業規則策定相談
    2. 税理士による弥生会計、freee、マネーフォワード、ミロク情報等会計ソフトの相談
    3. インボイス制度対応の相談
    4. 電子帳簿保存法の相談
  5. 資金繰り/事業計画のカテゴリーでは
    1. 元銀行支店長による財務改善の相談
    2. 創業資金調達の相談
    3. 売掛金回収の相談
  6. 海外のカテゴリーでは
    1. 海外取引企業現役社長による海外輸出、海外向け商品開発の相談

 これらの相談が無料、かつ、予約さえ取れれば何度でも相談可能という。民業圧迫ではないかと専門家から指摘されてもおかしくないほどの充実ぶりである。

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オルツの粉飾決算の構造を仕訳で推測すると……(2025/10/29)

 10年前に設立され、2024年10月に東証に上場を果たした「AI議事録サービス」の株式会社オルツは、上場後、

  1. 2025年4月:売上過大計上の疑いで第三者委員会の設置
  2. 2025年7月:売上高の最大9割を過大計上と公表し民事再生法の適用申請
  3. 2025年8月:上場廃止
  4. 2025年10月:元社長含む経営幹部4人が粉飾決算疑いで逮捕

[参考]株式会社オルツ IR情報

 2024年12月期のオルツ社の有価証券報告書の連結損益計算書によると、

  1. 売上高は約60.5億円
  2. 販管費は約80.5億円
  3. 営業損失として▲23.2億円

となっている。さらに販管費の内訳を見ると、

  1. 広告宣伝費が約45.8億円(対売上高比75.7%)
  2. 業務委託費が10.2億円
  3. 研究開発費が13.6億円

となっており、広告宣伝費と研究開発費の合計と売上高がほぼ同額となっていた。

 同社の売上高は、AI議事録サービスのシステム販売数及びアカウントの発行数量×単価で大半が構成され、直販及び販売代理店経由でサービスが提供されていた。

 この事件は、札幌に本拠を置く監査法人、主幹事証券である大和証券、名だたるベンチャーキャピタル数社すべてが、粉飾決算を見抜けなかったことでも世間を賑わせた。

 今回の粉飾決算を簡略的に仕訳で推測すると、

  1. 販売代理店等にアカウントを大量発注させ架空売上を計上
      売掛金 / 架空売上
  2. 外部企業に広告宣伝費を支払い販売代理店等に資金を還流させ、売掛金の回収を行う
      広告宣伝費 / 売掛金

 実物資産の売買でなくアカウントの販売なので実態が分かりにくいこと、経営者及び少数の幹部で仕組まれていたこと、AI関連企業として急成長分野に属していたこと、等々の理由で、歪な財務諸表に誰も気づけないまま、上場から倒産に至ったと思われる。

 早速、個人投資家が集団訴訟で損害賠償請求を行い、特に監査法人の責任は追及されることになるだろう。

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freeeが黒字転換した(2025/10/15)

 会計ソフトのfreee社の2025年6月決算が公開された。その有価証券報告書(連結)によると、

  1. 売上高は対前年で78億円の増加
  2. 売上原価は対前年で15億円の増加
  3. 結果、売上総利益は対前年で63億円の増加
  4. 販管費では対前年で26億円の減少(主たる項目は下記)
    1. 開発費が対前年で36億円の減少
    2. 広告費が対前年で11億円の減少
    3. 人件費が対前年で12億円の増加
  5. 結果、税金等調整前の当期純利益は前期の▲101億円から+4億円と黒字転換を果たした。

 freeeのビジネスモデルは「課金者数(個・法人)×平均課金単価」で売上の大半が構成されるので、この2つの数値の推移が今後の成長に繋がる。

 課金者数は、2025年6月末時点で

  1. 法人ユーザーが234,072社
  2. 個人ユーザーが372,461者
  3. 合計 606,533者

 個人法人合わせた課金単価は56,704円(月単価4,725円)で、売上高343億円に到達した。

 2026年6月期の通期予想では、売上高が409億円〜415億円、営業利益で24.6億円〜25億円としている。

 これで2025年6月期の1株当たり純資産(解散時価)は329円となり、現在株価の10倍を超えた。1株当たり利益も23円の黒字になり、現在株価の150倍で取引されている。

 freee社がターゲットとする市場は、

  1. 個人事業主448万者
  2. 従業員19人未満の法人176万社
  3. 従業員1,000人以下の法人29万社

 合わせて約650万者の個人事業主や小規模法人、中小・中堅企業で構成される。やっと、市場全体の10%の課金者数を達成して黒字転換を果たした

 ここ数年freee社は、

  1. 情報システム部門向けの自動化ツール「Bundlle」を提供するWhy社の買収
  2. インボイス・電子帳簿保存法の対応に「sweeep社」を買収
  3. Mikatus社、YUI社など連結会計ソフトを提供する企業の買収

などを行っている。

 本業でのビジネスの安定期に入り、事業領域を拡大するための投資段階に入ってきたようだ。

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