2025/02/05 地銀の経営統合で融資がどう変化するか?
2025/01/22 税理士が顧問先の価格転嫁交渉の裏付け資料を作成する
2025/01/08 ゼロゼロ融資の会計検査院の報告
2024/12/18 人の介護の次は、住宅の介護
2024/12/04 店舗併用住宅の事業承継
2024/11/20 安易に代位弁済されないようにするには
2024/11/06 長男と次男への学費のかけ方と紛争の予防

地銀の経営統合で融資がどう変化するか?(2025/02/05)

 愛知県の中小企業向け融資は、従来から名古屋銀行、愛知銀行、中京銀行の3つの第二地銀と岡崎信用金庫や岐阜信用金庫といった強力な信金を中心に、激しい貸出営業が続き、「名古屋金利」と呼ばれる低金利競争も激化していた。

 金融庁の指導もあり、金融機関の再編・統合の波が東海地域にも及び、今年の1月1日で愛知銀行と中京銀行が合併し、「あいち銀行」となった。合併方式は吸収合併で、愛知銀行が存続会社、中京銀行が消滅会社となった。

 合併前の直近の決算短信(2024年9月第二四半期)を見ると

  預金(末残高) 貸出金(末残高)
愛知銀行 3.9兆円 3.2兆円
中京銀行 1.9兆円 1.5兆円

 二行合計で預金が約6兆円、貸出金が4.7兆円で、愛知県のトップの地銀となった。

 貸出金をさらに詳細に見ると

  1. 愛知銀行は、2024年3月〜9月の半年間で、貸出金が約792億円の増加
  2. 愛知銀行の2023年10月〜2024年9月の過去1年間での貸出金は、約1,469億円の増加
  3. 中京銀行は、2024年3月〜9月の半年間で、貸出金は約192億円の減少
  4. 中京銀行の2023年10月〜2024年9月の過去1年間での貸出金は、282億円の減少

 この結果は、如実に中京銀行が新規融資のハードルを高めた、もしくは不良債権化する前に回収を早めた、と考えざるを得ない。

 合併後は、2025年7月から店舗再編に着手し、現在の154拠点を最終的に110拠点規模にする計画で(日経記事より)、これはつまり、154人の支店長が110人の支店長になることを意味する。

 中京銀行をメインとし、支店長との人間関係を脈々と築いてきた経営者は、「あいち銀行」の新支店長や融資担当者との関係づくりの再構築を迫られる。仮に資金繰りが厳しく追加融資や期限延長の必要性がある場合は、県外の金融機関や信金等との新たな取引も考えざるを得なくなる。

 地銀の再編・経営統合が借り手に与える影響を列挙すると

  1. 統合後の銀行の方針で融資の審査基準や金利が変わる可能性がある
  2. 統合により特定のサービスが廃止されたり、新しいサービスが導入されたりすることがある
  3. 統合により手数料やサービスのコストが変動し、借り手の経営コストに影響がある

 長期的には、人口減少で地方の金融機関ほど「預金」が減少し、地域の中小企業の融資に回らなくなる恐れもある。今のうちに、体力のある金融機関やネット銀行も検討しておく必要があるだろう。

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税理士が顧問先の価格転嫁交渉の裏付け資料を作成する(2025/01/22)

 中小企業基盤整備機構(中小機構)は昨年12月、「価格転嫁検討ツール」をリリースした。会計事務所の担当者には、これを体験しておくことを勧める。

 事業者が取引先に価格転嫁交渉を行うのに「物価も上がっているし、今後の取引価格は○○%値上げさせてほしい」と頼み込む姿は容易に想像できるが、取引先の担当者が「何を根拠に」と一旦保留にする姿も日常であろう。

 中小機構の開発したツールは

  1. 仕入れ・材料費、エネルギー価格、人件費等が高騰し始める前(機構では2021年)の決算書のPLを入力する
  2. 商品名・取引先名のいずれかを選択し、各個別の売上・原価・販管費等の金額を推定でも入力する
  3. 現在の決算書を、1.と同様のフォーマットに入力する
  4. 商品名・取引先も同様に、現在の売上・コストを入力し、加えて販売数量も入力する
  5. この段階で、全体の「原価構成」と個別の商品・取引先の「原価構成」を比較し、特徴点を把握しておく
  6. 人件費や製造原価・販管費項目から内訳表示でき、全体と個別のコスト比較が可能になる
  7. 水道光熱費も、水道代・電気代・ガス代の内訳を入力すれば、全体・個別の比較が可能になる
  8. 現在の項目別コストをコスト高騰前の「売上高各コスト比率」で割返した「参考価格」が算出される
  9. 参考価格と現在の各コストを販売数量で割り、1個あたりの各コスト単価の増減を検討する
  10. この検討表は印刷すると8ページで出力され、価格転嫁の交渉材料として社内で共有できる
  11. PCであれば使用可能で無料、かつ登録も必要としない
  12. 全国の商工会議所も、このツールの使用を勧めているようだ

 中小機構は、税理士等の支援機関や金融機関にも、このツールを使った経営助言をお願いしている。 現段階では単一商品か単一の取引先のみのコスト検討しかできないが、この2月には複数商品、複数の取引先別でのコスト比較が可能なツールにバージョンアップされる予定だ。

 税理士が使用するイメージとしては、まず全体のコスト高騰前と現在の決算書入力を行い、顧問先の経営者及び現場責任者から商品別若しくは取引先別で売上高・仕入れ材料費・人件費・水道光熱費等の個別(推定でもよい)数値の聞き取りを行い、ツールを完成させるとよいだろう。価格転嫁交渉の論理的な展開ができるはずだ。

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ゼロゼロ融資の会計検査院の報告(2025/01/08)

 会計検査院は2024年12月18日、「中小企業者等に対する新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等及び新型コロナ関連保証に係る保証債務等の状況について」の検査結果を公表した。

 この検査は前年に続き行われたもので、これらの比較を行うと

  令和5年度末 令和4年度末 対前年増減
貸付実績累計金額 20.6兆円 19.4兆円 1.2兆円増
貸付実績累計件数 127万件 118万件 9万件増
年度末の貸付残高 12.4兆円 14.3兆円 1.9兆円減
貸付残高件数 96.8万件 98.9万件 2.1万件減
貸付債権償却累計金額 1,490億円 697億円 793億円増
貸付債権償却件数 1.4万件 0.7万件 0.7万件増
条件変更中債権金額 1兆654億円 6,654億円 4,000億円増
条件変更中債権件数 8.3万件 5.3万件 3万件増
延滞等金額 2,182億円 1,195億円 987億円増
延滞等件数 2.3万件 1.1万件 1.2万件増
リスク管理債権金額 1兆1,965億円 8,785億円 3,180億円増
(注1)貸付債権償却額は、債務者の破産等により回収の見込みがないものとして処理されたもの
(注2)延滞等は、元利金支払の延滞及び事業者の破綻

 日本政策金融公庫の国民生活事業で扱う小規模事業者向け融資では

  1. 条件変更中の貸付債権残高が前年比で1.6倍に急増
  2. 延滞等の貸付債権額も前年比で1.9倍
  3. リスク管理債権も前年比で1.5倍

 今年は、過剰債務を背負った中小企業や個人事業が、小規模かつ旧来型ビジネスモデル(価格転嫁が困難)から脱しきれず、物価高や人手不足が直接の誘因となって倒産・廃業に向かうケースが急増する年になりそうだ。

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人の介護の次は、住宅の介護(2024/12/18)

 総務省が5年ごとに行っている「令和5年住宅・土地統計調査」が今年の9月25日に公表された。最も関心の高い空き家数は900万2千戸と過去最多で、空き家率も13.8%になった。

 空き家数の内訳を見ると

  1. 賃貸用の空き家:443万6千戸
  2. 売却用の空き家:32万6千戸
  3. 二次的住宅(別荘等):38万4千戸
  4. @〜Bを除いた空き家:385万6千戸
  5. 空き家で問題視されているCが5年前に比して36万9千戸の増加

 空き家状態で相続すると、相続人の固定資産税や都市計画税は従前の税額の6倍になることは理解が進んでいるようだ。これは、居住を目的とした小規模住宅用地(200平米までの部分)に限って、固定資産税は1/6、都市計画税は1/3に減額する特例措置があるためで、相続して「特定空家」になった途端、空き家の相続人に上記の税負担が生じるようになった。従前の納税額が10万円だった小規模住宅用地を相続し特定空家になると、年60万円の税負担になる。この状態が10年続くと600万円、20年続くと1,200万円の納税をし続けることになる。

 特定空家とは

  1. 人が住んでいない状態が長期間にわたり続いている建物・敷地のうち
  2. 倒壊など著しく保安上の危険があること
  3. 著しく衛生上有害となる恐れのある状態
  4. 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

 2023年12月には改正空家対策措置法が施行され、特定空家だけでなく、将来的に特定空家になる恐れのある空き家も「管理不全空家」として行政指導の対象になり、固定資産税の住宅地特例の解除も可能になった。空き家の相続人は「空き家の管理責任」が明確になり、特に遠方に住む相続人の負担は益々増加する一方だ。

 このような状況下で、「日本空き家サポート」が注目を浴びている。

  1. 各県の不動産業・地元建設業を加盟店として、現在196社(2024年8月、京葉銀行ニュース)で活動
  2. 月額11,000円のコースでは月に1回約1時間かけて、建物外観チェック、室内の換気・通水・防犯管理を実施
  3. WEBで依頼人に毎月の報告

 運営するL&F(千葉市)は、相続を接点として地銀との提携を急いでいる。

 年間10数万円のコストをかけることになるが、固定資産税の大幅な増額や周囲環境の悪化等を考えると、こうしたサービスは、人の介護に続く住宅の介護として必要なものになっていくのだろう。

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店舗併用住宅の事業承継(2024/12/04)

 飲食業、小売店等は、1階部分で店舗運営、2階が住宅といった併用住宅で事業を行っている人も多い。事業者の高齢化が進み、「店は引き継いでもらうか、廃業するか考える」「住宅はそのまま居住したい」といった、売り手側の事業承継ストーリーがあることも事実である。

 店舗併用住宅での運用は、過去はクリニックや歯科医院も多かった。クリニックは事業の成長に伴い敷地面積を拡大し、店舗や住居の豊かさを実現してきた。

 こうした背景のもと、店舗部分のみ承継したいという需要も表面化してきた。店舗併用住宅の承継策として買い手が「店舗賃貸契約」を望むならば、さして難しい問題は残らない。一方で、店舗部分のみ譲渡してほしいとの要望が出てきた場合には、少々やっかいな手続きが残り、コストも馬鹿にならない。

 店舗併用住宅の、店舗部分のみの分割譲渡には

  1. 分割計画書の作成
  2. 登記申請:
    分割計画書、登記簿謄本、所有者の印鑑証明などが必要
  3. 税務手続:
    分割後の評価額に基づいて不動産取得税や登録免許税の申告・納付が必要
  4. 土地の分割:
    実際の土地の分割の終了後、土地の境界線の確認や分割後の地目変更が必要になることもある
  5. 2階建ての建物の分割譲渡には、建物の内部構造に応じた工事が必要になることもある

 こうなると、専門家に依頼せざるを得ず、相応のコストを求められる。

 売り手側が「店舗のみ引き継いでもらいたい、しかし(上記のような)分割譲渡方式は現実的ではない」とするならば、

  1. 店舗の運営を買い手側に委託する「業務委託契約」を結ぶ方法も考えられる。
    この場合、委託料で双方の合意を得る交渉が生じる。
  2. パートナーシップ契約を結び、共同で店舗を運営する形にする。
    この場合の収益の分配や経営権についての合意が必要となる。

 現実問題、クリニック等は別として、飲食業・小売店等の店舗併用住宅で事業を行っている事業者の課題は、店舗の承継者探しよりも「居住を前提として店舗運営を承継してもらう人の探索」ではあるまいか?

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安易に代位弁済されないようにするには(2024/11/20)

 令和6年上期の全国信用保証協会連合会の「信用保証実績の推移」が公表されている。これによると、

  1. 代位弁済の件数ベースでは、今上期が24,719件で、前年同期比で118.9%となった
  2. 金額ベースでは2,789億円で、前年同期比で119.0%となった

 東京信用保証協会の上期レポートによると、

  1. 代位弁済は件数で3,517件で、前年同期比で119.8%となり
  2. 金額ベースでは444億円で、前年同期比で127.6%となった
  3. 回収総額は51億円で、代位弁済した金額の約1割強でしかなかった

 栃木県信用保証協会の2024年9月の統計情報では、

  1. 令和6年9月末の保証債務残高は5,207億円
  2. 内、条件変更債務残高が約1割の508億円となり
  3. 代位弁済額がさらに約1割の約48億円となっている
  4. 金融機関別保証状況(当年度累計)では足利銀行が代位弁済件数で156件、金額で約16億円
  5. 栃木銀行が件数で123件、金額ベースで約8.6億円となり
  6. 地銀の足利銀行と第二地銀の栃木銀行で、代位弁済金額の過半数を占めることになった

 山梨県信用保証協会の9月の保証状況を見ると、

  1. 令和6年上期の代位弁済額は約16億円(対前年比96.3%)
  2. 内、山梨県民信用組合が約7.2億円(件数で62件)で、前年同期比で486%となった

 各保証協会の地域の事情はさまざまであろう。しかし、金融機関別の保証状況を見ていくと、代位弁済の対象となった事業所はゼロゼロ融資で地域金融機関からどっぷりと融資を受け、返済がきつくなると「条件変更→代位弁済」へと機械的に処理されているようにしか、見えないようにも思える。1,000万円未満の借入残程度の超小規模な事業者への経営指導などコストオーバーで、金融機関からすると代位弁済で早く決着を付けたがっているとしか思えない。

 街の税理士さんの役割を果たす時期が到来している。

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長男と次男への学費のかけ方と紛争の予防(2024/11/06)

 先日知り合いの開業医の奥さんから、次のような相談を受けた。

「家には兄弟が2人いる。兄が私立大学の医学部を卒業するのに、学費などを含めて約6,000万円援助した。弟は医者にはならず文系の国立大に進んで、今は学者の道を進むと決めている、弟は、「父の相続の時、兄に援助した6,000万円は特別受益額として、父の相続財産に加算して、遺産分割することができる」と主張している」

 医学部に限らずとも、高額な学費が特別受益に該当するか否かは、相続人にとって重要な判断事項となる。子どもの学費が特別受益に該当するかどうかは、

  1. 扶養義務の範囲を超えた生計の資本としての贈与であること
  2. 親の経済力から見て、相当無理をした学費の支出ではないこと
  3. 特定の子どもだけ高額な学費を出して、他の子どもとのバランスを著しく欠いていないこと

等が判断材料になるだろう。

 ただし、上記の例でいうと、6,000万円の学費援助を受けた兄が、父親の医院を将来に事業承継する約束をしている場合には、単なる高額な学費と捉えるよりも、将来の事業継承者の育成投資と見ることもできる。そうなれば、特別受益か否かで論争が起こることはないと思える。

 医学部進学予備校メビオの「【私立医学部入学者】学費ランキング2024」によると、31大学のうち、6年間の学費の総額が最も少ないのは国際医療福祉大学で18,500,000円、最も多いのは川崎医科大学で45,500,000円である。実際には高額な寄附金が父兄に要求されることもあり、今後の学校運営も考えると、実際の学費は更に高額である可能性も高い。

 特別受益の持ち戻し請求権の時効は10年とされている。開業医を顧問先にしている会計事務所は内部事情も精通しているはずなので、この時効問題も含め、将来の親族間トラブルを防ぐ役割を果たしていかねばならない。

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