作成日:2014/09/12
消費税の役務提供は、所在地ではなく仕向地課税へ?
平成27年度税制改正が検討されていく中で、一番興味があるのは、恒久財源として何をもってくるのだろう、というところではないでしょうか。
この点については、政府税制調査会が6月27日に公表した「法人税の改革について」でいくつか見直し項目として提言されており、既にご案内のとおりです。ところで、この6月27日の税制調査会において、法人税の改革の他、消費税、とりわけ国境を越えた役務提供に対する消費税の取扱いについての制度案が示されています。こちらについては、まだご案内しておりませんので、今回確認してみましょう。
○第10回 税制調査会(2014年6月27日)資料一覧
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2014/26zen10kai.html
国境を越えた役務提供に対する消費税の問題点については、報道等でご存知のとおり、海外からの電子書籍や音声配信がクローズアップされています。
分かりやすい資料がありますので、それらを見ながら確認していきましょう。いずれの資料も上記URL内にある『税制調査会資料〔国境を越えた役務の提供に対する消費税について〕 ー制度案についてー』からの抜粋です。
まず次の図は、国内事業者・国外事業者双方から同じものを購入しながら、一方では消費税が課税され、一方では課税されないという歪みを図にして解説されているものです。
そもそも消費税は国内取引が課税対象であり、国外取引は課税対象外である(つまり消費税は課税されない)、という根本的な話から始まります。
そして、国内か国外かの判定をするにあたっては、消費税法(以下、消法)や消費税法施行令(以下、消令)の規定で判断がなされていきます。
そのなかで役務提供取引は、役務提供場所が判断基準の原則とされています(消法4)が、役務提供場所が明らかでない場合あるいは国内外に渡って行われる役務提供である場合には、消令6Aに列挙されており、これに基づき判断がなされます。
今回の歪みは、役務提供場所が明らかでない場合で一定の役務提供に該当しない場合には、“役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地”で判断がなされる点から生じています。
つまり、電子書籍や音声配信は、役務提供場所が明らかでないために役務提供を行う事業者の所在地が国外であれば消費税が課されない、という点なのです。
この点について制度案では、まず内外判定基準の見直しを次のとおり提言しています。
上記図でお分かりのとおり、これまで“役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地”で判断がなされる点を“役務の提供を受ける者の住所等又は本店等の所在地”で判断しよう、というものです。そのようになれば、上記歪みが解消される、ということのようです。
ただし、そうなると現状消令6A五にある「情報の提供又は設計…情報の提供又は設計を行う者の情報の提供又は設計に係る事務所等の所在地」はどうなるのでしょうか。上記図内のA政令で定める一定の役務の提供には含まれていません。この点については、次のように別途提言されていることから、国外のみで行われている場合を除き、仕向地課税の対象となるということがいえそうです。
- 次の取引に関しては国外取引であることを法令等によって明確化すること
- 国外で行われる当該国外に関する情報の収集、整理若しくは分析等(その結果の提供を含む)
- 国外で行われる当該国外に所在する資産の取得、管理又は譲渡等に係る役務の提供(その結果の報告を含む)
- 次のような国外の役務の提供と国内での役務の提供が一体化しているケースは、仕向地課税により判定が行われる。
- 国内事業者の依頼に基づいて、国外でシステム開発を行うとともに、当該開発したシステムを国内の事業所等に導入・稼働させる役務提供を一体で請け負う場合
- 国内事業者の依頼に基づいて、国外で研究開発を行うとともに、その研究開発の成果を国内における製品製造等に反映させるための役務提供を一体で請け負う場合
このような見直しがされた場合には、国外事業者に消費税を納めてもらわなくてはならず、実務上どう申告納税していくのかについて考えなければなりません。
この点について制度案では、次の2つの課税方式を示しています。
この課税方式に係る実務上の問題点その他については、議事録を読む限り全面的な解決には至らなかったようですが、27年度税制改正に盛り込みたい勢いがあることが議事録からはうかがえました。
なお、法人税の改革案も含めて、あくまでもこれらは政府税調からの提言であってこれらがすべて27年度税制改正に盛り込まれる保障はありません。中里会長の記者会見議事録にもあるとおり、現実の制度設計にどう生かされていくのかは、あくまで政治過程での問題が絡みます。課税の歪みが生じていることは確かであるものの、この見直しがなされた場合には、電子書籍や音声配信だけが課税対象になるわけではないことを念のため確認しておきましょう。
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